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釧路地方裁判所 昭和59年(行ク)7号 決定

申立人(原告) 金子司

相手方(被告) 北海道開発局 帯広開発建設部長

主文

本件を札幌地方裁判所に移送する。

理由

一  申立人は、主文同旨の決定を求め、その理由の要旨は、「本件事案は、全北海道開発局労働組合(以下、全開発という。)が昭和五七年一一月一日、同年一二月一六日及び同月二四日行つた争議行為(以下、本件争議行為という。)につき、全開発帯広支部十勝ダム分会執行委員長として参加した原告が昭和五八年四月一九日、北海道開発局帯広開発建設部長(被告)から懲戒処分として戒告を受けたことに対しその取消を求めて訴訟に及んだものであるところ、本件争議行為に参加した全開発に所属する組合員で右と同じ日に同様の懲戒処分を受けたものは、原告のほかにも多数いるが、いずれも処分行政庁が異なるため札幌を主とする北海道内の各地方裁判所に事件を提起せざるを得なかつたが、原告代理人も被告側窓口も共通であり、事案や主張の内容も同一であるから、各事件相互の間には行政事件訴訟法一三条六号に該当するというべきであり、その他訴訟経済上及び各裁判所の判断の牴触を避けるためにも、最も多くの組合員の事件の係属している札幌地方裁判所へ移送することを求める」というものである。

二  よつて判断するに、一件記録によれば、全開発は、昭和五七年一一月一日、北海道開発局が従来の直営で実施していた除雪事業を昭和五七年から請負化する方針を示したことから、これに反対する行動として、同年一二月一六日及び同月二四日人事院勧告の実施を求める公務員共闘の全国統一行動の一環として、本件争議行為を行つたところ、昭和五八年四月一九日これら争議行為に参加した組合員に対して懲戒処分がなされたため、処分を受けた三六一名の組合員が原告となつて処分の取消を求めてそれぞれの処分権限者の所在する土地を管轄する地方裁判所に訴を提起したが、本件訴えは、このようにして提起された訴訟のひとつであること、ところが右訴えを提起した組合員の大多数にあたる三五八名を懲戒処分にした六名の処分権限者の所在地を管轄する裁判所がいずれも札幌地方裁判所であつたため、これらの訴えは同裁判所に提起され、現に係属している(同庁昭和五九年(行ウ)第三〇ないし第三五号)こと、したがつて、これら札幌地方裁判所に係属した事件と本件とは、原告及び被告の訴訟関係者がいずれも同一であり、事案の性格上、証拠関係、争点および攻撃防御方法の相当部分において共通する点が多いと予測されること、両事件とも裁判所に係属してから、いまだそれ程日時が経過しておらず、訴訟の進行程度に差異がないこと等の事実が認められる。

ところで、行政事件訴訟法第一三条を設けた趣旨は、重複審理による当事者の煩わしさと裁判内容の矛盾牴触を防止することにあるが、これを広く認めるときには事件を複雑長期化し迅速処理を妨げる虞れなしとしないので、どの範囲で併合を認めるかは右の相反する要請の調和をはかつてなされなければならないから、二つの訴え相互の間に、争点攻撃方法の相当部分を共通にしているときにはその限度において同条六号にいう「関連する請求」としてこれを認めるのが相当であるところ本件訴えと札幌地方裁判所に係属している前記各訴えとの間には、右のとおり共通する点が多いと予測されるので、両者は行政事件訴訟法一三条六号の関連請求に該当し、主観的併合が許されると解され、本件訴えについても、札幌地方裁判所には当庁と競合して管轄があるというべきである。

而うして、管轄が競合する場合に、どの裁判所での審理を求めるかの選択は、原則として原告において行いうること、及び前認定の各事実を総合すれば、本件訴えを札幌地方裁判所に移送することが当事者の便宜に合致し、訴訟経済の効率化、裁判内容の矛盾牴触の防止等のために必要であると認められ、一方、移送によつて被告に不利益が生ずる事情は窺うことができず、また、その審理が当裁判所において審理する場合に比べて著しく遅滞するものと考えられない。

三  よつて、本件申立を相当と認め行政事件訴訟法一三条により主文のとおり決定する。

(裁判官 畔柳正義 杉本正樹 生野考司)

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